2007年07月10日

No.33【もう、国には頼らない。経営力が社会を変える!】 渡邉美樹[著]

「『民間にできることは民間で』
『行政改革』を旗印にしていた小泉純一郎前首相のキャッチフレーズのひとつです。一民間企業の経営者として、私はこの意見にもちろん賛成です。ただし、私ならばさらにこう言うでしょう。
『民間に出来ないことなど、何もない』
ところが、そう思っていない人たちがいます。官僚の方々です。
『公共性の高い事業に関しては、金儲け第一主義の民間に任せてはいけない』
これが長い間、日本の“常識”でした。『公=官』というわけです。
『小泉改革』はその“常識”を変えようとして、道路事業や郵政3事業の民営化を進めたわけですが、建前では民間に開放されていながら、事実上『官』が牛耳っている『公』的な事業が日本にはまだまだたくさんあります。
 それが、私が現在『民』の立場で取り組んでいる『教育』『医療』『福祉・介護』『農業』『環境』です。いずれもあらゆる人々が安心して暮らしていくために必要不可欠で、誰もが等しく受ける権利を持っている、真に『公』的な事業です。同時に、典型的な『官』配下の『行政産業』がはびこる分野でもあります。
 ご存知の通り、これらの分野がいま、崩壊の危機に直面しています。
 なぜ、子供たちを育てるための学校で、いじめが起き、自殺者まで出てしまうのか?
 なぜ、患者を治療するための病院で、たらい回しや医療過誤がなくならないのか?
 なぜ、高齢者の終のすみかとなるべき老人ホームが、お年寄りをぞんざいに扱うのか?
 なぜ、日々口にする農産物が、安全・安心ではないのか?
 なぜ、科学技術を極めた人間が、地球環境を悪化させ続けるのか?
『官』の立場に立つ人たちは、公的サービスは、民間に任せるとどうなるかわからない。だから『官』が徹底して管理しなければいけないのだ、と主張し続けてきました。その結果がこのていたらくなのです。『官の論理』の行き着く先が、こんなお粗末な社会なのだとしたら・・・。日本の未来は暗澹たるものです。
 私は思います。本来、『公』の仕事は『民』のためにあるものだ。ならば『官』任せにせず、『民』が自らの力で、『公』の仕事にかかわっていくべきではないか、と。
 では、『官』になくて『民』にあるのは、なんでしょうか。
 それは『経営』です。
 私は『学校』『病院』『老人ホーム』『農業』『環境」の分野で事業を展開していますが、その手法はきわめてシンプルです。要するに外食産業でやってきたように『経営』をしただけなのです。」
 



 今回取り上げる書籍は、居酒屋「和民」の経営者として有名なワタミ株式会社 代表取締役社長兼CEOの渡邉美樹氏の「もう、国には頼らない。経営力が社会を変える!」です。現在渡邉氏はこの著書でも紹介している通り、学校教育、病院経営、農業、環境問題に取り組んでいます。最近では、グッドウィルの介護事業子会社コムスンの受け皿として名乗りを上げていることで世間の注目を集めています。

 本書の副題は「経営力が社会を変える!」ですが、この書籍ではまさにそのとおりに渡邉氏が「学校」「病院」「老人ホーム」「農業」「環境」の分野で経営力をつかい、成果をあげていく様子が書かれています。経営難に陥った学校、病院、老人ホームを建て直し、しっかりと利益を出していくと同時に、その利益で“お客様”に対しさらによりよいサービスを提供していく姿は、読んでいて痛快でもあります。

 もともと教育の場をつくりたい、学校を設立したいという夢を持っていた渡邉氏は、財政危機に陥り崩壊寸前の「郁文館」という学校の再建を依頼され、財政支援を行い、理事長に就任します。その時の様子を以下のように語っています。

「実際に郁文館に足を踏み入れたときの第一印象は、最悪でした。
 一番ひどいなと思ったのはゴミ。とにかく校内がゴミだらけ。そんなゴミだらけの廊下を歩いて、教室に入ればそこもゴミだらけ。紙くずも何も全部そのへんに捨てっ放し。とても掃除をしているようには見えません。
(こんな汚い学校ってあるのかな)
 それが偽らざる心境だったのです。
 おまけに生徒たちは、挨拶というものを全然しない。
(こんなに挨拶をしない学校ってあるのかな)
 あるわけです。私の目の前に。
 そのうえ、全校生徒1600人のうち、ひどいときには3分の1にあたる500人前後の生徒が遅刻してくる。それが当たり前になっていたのです。
 「学校はきれいにすること」「遅刻はいけないこと」という常識が、この郁文館から完全に欠落していました。」

 深刻な財政難のうえ、やる気が見られずチームワークのかけらも感じられない先生たち、こんな状況の学校をどうやって再建していったのか。キーワードは「夢教育」でした。

「やりかたは単純にして明快。『これは生徒の幸せのためになってないよね。だからだめだよね』─この判断基準で、学校の業務を仕分けていけばいいのです。そうやって整理された仕事を、『夢』というキーワードで結びつけていくのが、大事な作業でした。」

 渡邉氏は「学校は子供たちの幸せのためだけにある」という、唯一絶対の目標を掲げるところからその作業を始めていったとのこと。その結果、まだ改革途中ではあるものの、受験市場での郁文館の人気はうなぎのぼり。2007年度の受験者数は前年にくらべ1000人も増え、首都圏の私学のなかでも、増加人数で1位、増加率でも2位を誇るようになったとのこと。もちろんそれだけでなく、先生の人事評価制度を変えることで教師たちのチームワークは強固になり、職員室はみちがえるほど活気があるそうです。

 ちなみに渡邉氏は「夢手帳」なるものをプロデュースしていて、大きな書店や文房具店でみかけたことのある方も多いと思いますが、この郁文館では、いまでは全校生徒が持っているそうです。渡邉氏は入学式で「この学校では、遅刻をしたら反省文を原稿用紙10枚書かせます」と脅かしているそうです。それだけでなく、ゴミが落ちていたら拾いなさい、靴は脱いだらそろえなさい等々、日常生活レベルの心構えを、口やかましく言っているとのこと。これについて氏はつぎのように語っています。

「・・・こうしたことは、大人が子供に教えなければ、決して『当たり前』にはならないのだと、私は4年前、この学校に足を踏み入れた時に悟ったのです。教育と言うのは、世の中の『当たり前』を子供たちが『当たり前』にできるように教えていくことなのだ、と。」

 この他にも、病院再建の話、老人ホームの再建の話、農業の話など、渡邉氏の経営力が必要とされ、結果として再建しよりよいサービスを提供するに至るケースが紹介されています。特に老人ホームでの話では、お客様の満足などどうでもいい効率優先のお年寄りの介護の現場に失望し、自ら介護事業に参入を決意し改革していく様子は、読んでいてとても感動します。

 これまでワタミといえば居酒屋「和民」、外食産業のイメージでしたが、この本を読むと、これからの教育や医療、介護、農業でのワタミの活躍が期待され、そして確実に成長していく予感を持つことでしょう。コムスンの受け皿の話はまだ保留ですが、「ワタミ」といえば「介護」と多くの人が連想する日も遠くないかもしれません。

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posted by T.Sasaki at 13:26| 東京 ☔| Comment(0) | ■CSR(企業の社会貢献)の本質 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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