2007年05月14日

No.26【コミットメント 熱意とモラールの経営】DIAONDハーバード・ビジネス・レビュー[編訳]

 「コミットメントの補強は、言わば舗装されていない小道を、高速道路に変える行為のようなものだ。馬車道よりも高速道路のほうがはるかに速く走れるのと同じように、これによってビジネスの生産性は向上する。他方、道路が敷かれているがゆえに、行き先とルートが決まってしまうように、融通性が失われる。」


コミットメントと聞いて、日産自動車のカルロス・ゴーン氏を思い浮かべる人は多いと思います。従業員に個人や組織の目標を明確に約束して、その目標達成に全力を尽くし、もし達成できない場合はその責任を明確にするという考え方を徹底し、同氏は日産自動車で業績のV字回復を達成しました。

 しかし今回ご紹介する本書では、それよりも広い意味で使われているようです。第一章の著者、ドナルド N.サル氏の文章を引用すると、「個人の行動、約束、所信、意思決定」とあり、本書ではだいたいこのような意味で使われていると思って良いようです。本書は八章に分かれており、コミットメントをキーワードとして、ビジネスにおけるさまざまな事例からその実践・活用方法を学ぶことができるようになっています。

 第一章ではコミットメントを用いたマネジメントについて、利点と欠点などを含めた正しい理解を促し、経営においての活用方法について論じています。その中で私が興味を持った一文は、冒頭に引用した、「コミットメントの補強は、・・・」の文章でした。(冒頭の引用部分をご参照ください。)

 この言葉はコミットメントの利点と欠点を端的に分かりやすく説明していると思います。前回ご紹介したNo.25【(決定版)仕事は楽しいかね?─会社の宝になる方法】デイル・ドーテン[著]のメイン・テーマは「試してみることに失敗はない」というものでしたが、この考え方と一見矛盾しているように感じました。この本の登場人物、マックスは“試す”ということについて、「遊び感覚でいろいろやって、成り行きを見守る仲間になるんだ。」と表現しています。

 道を作る、という例になぞらえていえば、試すということは道を舗装したり、藪の中を通って道を切り開いたり、もしくは目的地に向かう途中のお花畑で足を止めることかもしれません。この場合「遊び感覚でいろいろ」やって成り行きを見守ることもできるでしょう。しかし高速道路を作るような数億円かかるような大事業を「遊び感覚でいろいろ」やってみて、成り行きを見守ることは現実的には難しいはずです。

 何がいいたいかというと、コミットメントとは「遊び感覚でいろいろやって」みる自由を制限する代わりに、ビジネスを急速に拡大していく可能性を秘めている、ということです。先の日産自動車の例で言えば、コミットメントとは達成すべき目標とその責任を表すものであり、達成できなければ責任を追及されるのです。多くの優秀な社員は目標を達成すべく働き、その結果がV字回復につながりました。しかし達成できなければ責任を負う、というスタンスは、「遊び感覚でいろいろ」やってみて「成り行きを見守る」というスタンスとはかけ離れており、そのような中では、実現するかどうか分からないような突飛なアイデアは見過ごされる可能性が高くなります。

 この考え方でいけば、「遊び感覚でいろいろやって」みることと、コミットメントを経営に取り入れることは、その会社や個人がおかれている状況や場所、時期などにより必要とされる場面が違ってくると言えます。

 またドナルド N.サル氏によれば、「個人的資質の違いにかかわらず、優れたマネージャーは例外なくコミットメントの醸成、維持、そして再度醸成する術に長けて」いるとのこと。この言葉を少し言い換えると、企業の発展とは優れたマネージャーによりコミットメントをつくりだし(醸成し)、それを維持し、いったんそれを壊して再度つくりだすことを繰り返していくことで成り立つ、と言えるのではないかと思います。

 本書の第四章、第五章では、IBMの事例が紹介されています。1990年代初頭、IBMが創業以来最悪の赤字を記録する中でトップに就任したルイス・ガースナーが、人材の多様性に活路を見出し企業を再生していく過程、またその後を継いだサミュエル・パルサミーノがIBMの新しい価値観をつくる過程についてのインタビュー等々。

 この事例は、IBMという巨大企業が再生する過程のはなしです。現在170カ国、30万人を超える巨大企業の再生の物語はその規模の大きさに、一瞬自分には関係のない話のように捉えてしまいがちです。しかしこの話から学べることは、IBMという巨大企業が目新しい戦略や素晴らしい技術によって再生したのではなく、ひどく地味で地道な努力、たとえば人材の多様性への理解や「誠実さで信頼を勝ち取る」といったような価値観をあらゆる階層にいる社員と分かち合うことで成し遂げられている、という点です。これらの事例は、企業における人材の重要性を物語っています。

 最後に、第八章「トップが認識すべきミドル・マネジャーの貢献」について取り上げたいと思います。この章ではミドルマネジャーが企業における抜本的な改革を実現するのに重要な役割を果たしている、という前提に立ち、経営者がその重要性を正しく認識し改革を成功させる方法について述べています。ちなみにミドルマネジャーとは本書において「現場の労働者や専門職より1ランク上から、CEOより2ランク下までのマネジャー」と定義されています。著者のクィ・グエン・フゥィ氏によれば、改革を成功させるために以下のような資質をもつ有能なミドルマネージャーを見つけるべきであるとしています。

 1.早くから自発的に協力する人材
 2.ポジティブな批判者
 3.非公式な力を持っている人材
 4.融通の利く人材
 5.EQ(心の知能指数)の高い人材

 著者の調査によれば、多くのミドル・マネジャーが、「社内起業家」になって、組織能力を向上させ、永続的な足跡を残すことを心から望んでいることがわかった、とのこと。

 本書では、企業の発展とは規模の大小を問わず、組織を形作る一人一人の人材をどのように活かすかにかかっている、ということを強く感じました。コミットメントの可能性とその弊害、組織の発展においての役割を学ぶことができる良書であると思います。コミットメントを経営に活かしたいという方は一読をお勧めいたします。

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ビジネス書で学ぶ人事労務管理
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posted by T.Sasaki at 16:23| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ■モチベーションをアップ! | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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