2007年03月16日

No.22【社員をサーフィンに行かせよう】イヴォン・シュイナード[著]

 「私たちの会社では、本当に社員はいつでもサーフィンに行っていいのだ。もちろん、勤務時間中でもだ。平日の午前十一時だろうが、午後二時だろうがかまわない。いい波がきているのに、サーフィンに出かけないほうがおかしい。・・・(中略)・・・パタゴニアの本社が、カリフォルニア州ロサンゼルスから西に約百キロメートル、太平洋を望むベンチュラにあるのも、パタゴニア日本支社が神奈川県鎌倉市にあるのも、社員がサーフィンに行きやすい場所だからだ。そして何より、私自身がサーフィンに行きたいのだ。」



 最初から型破りな経営論?が語られるこの本、アメリカのアウトドア衣料メーカー、パタゴニア社の創業者、イヴォン・シュイナード氏の著書を今回取り上げたいと思います。

 パタゴニアというアウトドアブランドをご存知でしょうか。日本では1990年代初め、アウトドアウェアがファッションとして流行してから広く認知され初めました(※注:私個人の認識です)。その品質の高さや、環境への負荷を視野に入れた製品作りなどが支持され、現在では一部のマニアの間でヴィンテージ物がプレミア価格で取引されるほどの人気ブランドです。
 
 本書は著者の次のような告白から始まります。
 「私が企業家になって、すでに五十年近くの月日が経つ。そのことを打ち明ける心苦しさは、自分が『アルコール依存症』や『弁護士』であると告白する人の心情に似ている。なにしろ、この肩書きに敬意を抱いたことは一度もない。ビジネスこそ、大自然の敵にして先住民文化の破壊者であり、貧しい人々から奪ったものを富めるものに与え、工場排水で土壌汚染を引き起こしてきた張本人なのだから。
 それでもビジネスは、食べ物を作り、病気を治し、人口増加を抑え、雇用を生み出し、生活の質をおおむね向上させる能力を持っている。しかもこれらの善行をなすと同時に、魂を売り渡すことなく利益を上げることもできるのだ。まさにその実例を、本書では示している。」

 ロック・クライミングにのめりこみ、自分でクライミング道具を作り始めたことがきっかけでシュイナード・イクイップメント社を設立。1970年代には、国内最大のクライミング道具会社に。しかしそのころ、同社の製造するピトン(岩に打ち込み支点にするクライミングの道具)が、岩の形をひどく損なうことに気づき、ピトン事業から手を引くことを決意、これが著者が始めて自然保護のために行った決断でした。
 
 同時にそのころから衣料品販売を始め、パタゴニアが誕生します。パタゴニアは次のような考えを持つ著者から生まれたと考えると、とても興味深く感じます。

 「私はそれまでずっと、企業家を自認するのをあえて避けてきた。私はクライマーであり、サーファー、カヤッカー、スキーヤーであり、そして鍛冶職人だ。・・・(中略)・・・一般的なビジネス慣習に従っていては、決して自分は幸せになれないこともわかっていた。機内誌の広告に登場する青白い顔をしたスーツ姿の屍から、できるだけ遠くに身を置きたいと思った。企業家にならざるをえないなら、自分なりの方法でなろう、と。」

 「・・仕事は毎日、楽しめなくてはならない。一緒に働く友人たちには、好きな服装でいてもらう。裸足でも可。誰もがフレックスタイムで働いて、波のいいときにはサーフィンを楽しみ、猛吹雪のあとはスキーで粉雪(パウダー)を堪能し、子供が病気になれば仕事を休んで看病する。仕事と遊びの境界線をはっきり引かないでおく。」

 パタゴニア社の環境に対する取り組みは有名ですが、本書の中で紹介されているものの中で代表的ないくつかの取り組みや理念を以下に引用いたしました。

「1994年には内部環境アセスメント報告書をはじめて作成し、四つの主要素材繊維、すなわちコットン、ウール、ポリエステル、ナイロンのライフサイクルを分析した結果、最も環境に害を及ぼすのは工業的に栽培されたコットンであることをしった。 そこで1996年の春までにパタゴニアのコットン衣料をすべて、百パーセント有機栽培されたコットンに切り替えた。・・・(中略)・・・1993年には他社に先駆けて、清涼飲料水のペットボトルから再生した繊維をシンチラ・ジャケットに使い始めた。」

「私達のミッション・ステートメントとはすなわち、『最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する』ということにほかならない。」

 著者は日本への進出について、本書の中のコラムで次のように語っています。
「パタゴニアの品質基準は世界一要求の厳しい顧客、すなわち日本人に合わせている。アメリカの自動車会社がそのことを認識したなら、日本でもアメリカ車が売れるのではないだろうか ─ そして、右側にハンドルをつけたなら。」
 
 私が本書の中で印象的であったのは、次の文章、2004年に展開したシリーズ広告の一文です。

 「企業が真に責任を負うべき相手は、誰なのか。顧客か。株主か。従業員か。私達の見解では、そのどれでもない。企業は本質的に、資源を生み出すもとに責任を負う。健全な自然環境がなければ、株主も従業員も顧客も、そして企業すらも存在しないのだから。」

 会社は株主のもの・従業員のもの、という議論がありましたが、パタゴニアは企業広告にこの文章を使用し、環境保護の姿勢を明確にしています。その姿勢はとても潔くすがすがしく感じます。

 また、パタゴニアがこれほど支持され、その規模を拡大してきたのは、環境保護の姿勢が評価されただけではありません。そこに働く従業員にとっても、企業の理念を遂行しやすい環境が整えられているのです。以下に代表的なものを引用しました。

 「ベンチュラ(※注:本社)で働く従業員はおよそ三百名で、託児所の子どもたちは百名。同等の託児所よりも保育料は低めに設定してある。会社が六十万ドルの補助金を拠出しているからだ。こうした一見財務上の負担に思えるものは、実のところ、利益を生む中枢にほかならない。なにしろ従業員の71パーセントが女性で、しかも上位の管理職についている女性も多い。」

 「従業員の健康維持と相互交流という観点から、本社には健康的でオーガニックの、野菜中心の食事をだすカフェテリアを設けた。また、トイレにはたいていシャワーを併設して、昼食休憩時にランニング、バレーボール、サーフィンなどを楽しむ従業員の便宜を図っている。当然ながら、社員販売の割引率もかなり高い。こうした福利厚生は、増加傾向にある医療保障を除いて、どれもさしたる負担にはならない。託児制度は税控除を合わせて考えれば採算が取れるし、会社が社員用カフェテリアに出す補助金はごくわずかですむ。にもかかわらずパタゴニアは、従業員、あるいは働く女性にとって働きやすい会社100社にいつも挙げられる。働きにくい会社を経営する人が多いのは、いったいどういうわけだろう。」

 環境保護と企業活動を結びつける取り組みとして、著者は以下のようなことも行っています。

 「2001年、クレイグ・マシューズと私は、『1%フォー・ザ・プラネット』と呼ぶ組織を立ち上げた。
 これは自然環境の保護および回復を精力的に推進する人々に対し、少なくとも純売上の1パーセントを寄付すると誓約する企業の同盟であり、その主たる目的は、より多くの資金を提供して、草の根環境保護グループの活動成果を増大させること。その目的は、資金援助を通してさまざまな環境保護グループの総体的な力を引き上げ、世界の問題解決にあたる能力を向上させることだ。」

 本書は次のような著者の言葉で締めくくられています。
 「パタゴニアは決して完全には社会的な責任を果たせないだろう。また、完全に持続可能なまったく環境に悪影響を与えない製品を作ることもできないだろう。だが、そのための努力は惜しまない。」

 これほど環境に対する意識の高い同社でさえ、“完全に持続可能なまったく環境に悪影響を与えない製品”を作れないほど、物質文明は進化しすぎてしまったようです。しかし、パタゴニアという会社は存在する限り環境保護のために資金を提供していく、という姿勢は消費者にとって強いメッセージとなります。

 なお、本書に掲載されている写真は面白い、興味深いものが多いです。それぞれ好きな服を着て写っているパタゴニア本社、日本支社の従業員の集合写真。Tシャツに短パン、裸足の足をデスクに投げ出しながらパソコンに向かう従業員。中国、万里の長城の壁面をフリーで昇る人(なんと著者のイヴォン氏本人・・・・。)

 強烈な個性を放つ著者、イヴォン氏が創業した企業、パタゴニア。これまで本で読んだどの企業家よりも強烈な印象をのこし、「こんな会社が世の中にあるのか」と思わせてくれます。
 
 最後に、私が思わず笑ってしまった、万里の長城を登る著者の写真に添えられていた文章を引用します。

 「全長5000kmの万里の長城は、モンゴルの侵入を防ぐために築かれたが、彼らは門衛に賄賂を送るなどして進入を果たした。私自身も、1980年に壁面を登ってここを突破した。難易度わずか5.8(初心者向け)だった。」
posted by T.Sasaki at 00:26| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(3) | ■CSR(企業の社会貢献)の本質 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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