2007年02月01日

No.17【企業内人材育成入門】中原 淳[編著]荒木潤子+北村士朗+長岡健+橋本諭[著]

 「数ヵ月後、Aさんは20代後半の若手社員向けに、キャリア開発研修を担当することになった。研修は1日のワークショップ形式で、受講生に今までの仕事を振り返って自分の得意分野や価値観を分析し、自分にとって仕事のやりがい、今後やりたい仕事について考えてもらうことを目標としている。 研修当日。研修は、自分が今後やりたい仕事について、シートに書いてもらうことから始まった。しかし回収した何枚かのシートを見て、Aさんは驚いた。2枚のシートにはそれぞれ、次のように書いてあった。

  シート1 「今後やりたい仕事・・・・課長になること」   
  シート2 「今後やりたい仕事・・・・家具職人」

 『 課長って、仕事じゃなくて役職じゃないか。うちは自動車会社なのに、どうやって家具職人になるつもりなんだよ 』。Aさんは、思わずつぶやいた。いったい、こうした個人の意思も尊重することが、キャリア開発なのだろうか。」

企業内人材育成入門
企業内人材育成入門
荒木 潤子,北村 士朗,長岡 健,橋本 諭

 著者は「あとがき」の中で次のように述べています。
「企業で、はからずも!?教育に関与しなければならなくなった人が、一番最初に手に取る教科書をつくりたい」「人材育成部門の書棚に常備される教科書をつくろう」。  

 本書は研修、勉強会のカリキュラムの作成に携わる教育担当者に向けて書かれた本です。それ以外にも、セミナー講師等教育ビジネスにかかわる方、経営者の方にも役立つ内容が多く含まれています。

 この本では、実際に研修、勉強会を行うときにどのようなことに注意すればよいのか、そもそも教育・学習とは何なのか、についてかなり広範囲にわたって人材育成の基本的な理論を学ぶことができます。「基本的」とはいえ、その内容はかなり細かく詳細にわたって解説されており、“人材育成部門の書棚に常備される教科書”としての役割を十分に果たしてくれます。

 紹介されている理論を一通り学んでおくことで、実際に自社で研修を行う際に、より効果的な方法を採用することが出来るはずです。しかしこの本を読むと、人材育成というものが非常に奥が深く、難しいものであるとあらためて感じることができました。

 「オトナはどのような時に学ぶか?」の項目の中で著者は次のように述べています。
 「まず、子供と異なりオトナの学習者は実利的である。現実の生活の課題を解決する学習を必要だと感じたとき、オトナは重い腰をあげる。これにたいして学ぶべき内容に関連性が見出せないとき、彼らは学ぼうとしない。関連性を見出すのは、彼らが会社で働く社会人である場合、仕事で生じた問題を解決したいと願うときであったり、自分に与えられた役割を全うしようと思うときであったりすることが多い。このようなときにはじめてオトナは学習のレディネス(学習の準備状態)を獲得する。」

 例えば業績の低迷するある企業が管理職に対し研修を行うとします。研修を行う人が上記のような視点をもたず、現場でさまざまな問題を抱え毎日奔走している管理職に対して、彼らが抱えている問題を理解しないまま的外れな「モチベーションアップ研修」など行ってもまったく効果が出ないことは、上記の「オトナはどのような時に学ぶか?」の考え方からすれば当たり前である、というわけです。

 では、本書で書かれていることを実践すれば効果的な研修・教育が出来るのでしょうか。そのことを考えたとき、多くの教育担当者は頭を抱えてしまうかもしれません。この本に書かれている事すべてを実践しようとすると、とても大変です。大企業ならいざしらず、中小企業において、人材育成だけに純粋に携わる人員を抱えていることは難しいのが現実です。他の業務を抱えながら、本書の理論を学び、その会社の人材育成のプログラムを作り上げるというのは並大抵のことではありません。

 だからといって人材育成をあきらめれば、No.12【「3年目社員」が辞める会社辞めない会社】で学んだように、人材流動化が進む現代、「成長実感」の持てない社員は次々と退職していく、といったことにもなりかねないのです。

 この問題に直面したとき、次のような方法なら中小企業でも有効な人材育成ができるのでは、と考えます。それはNo.13【利益を生み出す主婦パートを育てるすごい方法】で学んだ、パート社員に対しておこわなれていた配属前に行われる2週間にわたるOFFJT(職場外教育)に代表される方法です。この本の著者が「パート社員の戦力化に成功した要因のひとつ」と語るとおり、この方法は研修の成功事例といってよいと思います。

 なぜ成功したのか。それは、条件がかなり限定(対象は新規雇用された主婦パートのみ)されていること、そのため研修の焦点が絞りやすいこと、これらの理由により研修効果も測定しやすく、回数を重ねるごとに改善を重ね、よりよい研修を作り上げることができたこと、が要因ではないでしょうか。

 その企業の人材育成をトータルで考えてプログラムを作成するよりも、どの部分に力をかけることが一番効果的なのかを考え、そこに人や時間、お金などの資源を集中して研修を作り上げることにより、大企業と変わらない研修効果を得ることができるのではないかと思います。

 逆に言えば、他の部分は“ほったらかし”になりかねませんが、少なくとも広く浅く研修を行うよりは効果が上がることは間違いありません。

 冒頭に引用した箇所は、本書の中の第7章「キャリア開発の考え方」の中の一節に紹介されていた事例です。なかなか読み応えのある数々の理論の中、息抜きできるすこし“笑える”箇所だったので引用してみました。人材育成とは、こういった勘違いや研修に対して斜に構える非協力的な社員をも巻き込んで行わなければなりません。この教育担当者のため息が聞こえてきそうですね。
posted by T.Sasaki at 02:08| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ■人材育成の理論と実践 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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